∬ちょこっと、P.F.ドラッカー∬ ■何をなすべきか■

昨年9月9日(20009 09 09)に、ビートルズの全CDが、デジタル・リマスターを施した上で、全世界で発売され、店頭には深夜0時の発売を待って行列もできたとの報道があった。
1950年代生まれの我々世代には馴染み深く根強いファンも多いと思うが、若い世代にも広く浸透していることに感心させられる。
若い世代にはレコード盤の音楽を実際に聞いた経験がないという方も多いと思うが我々の世代の音源はラジオとレコードであった。
しかも初期のレコードは左右のスピーカから同じ音が出力される「モノラル」が主流であり、ビートルズの初期のアルバム4作も「モノラル」録音であったが、今回初めてステレオでCD化された。
モノラル音源しか存在しない楽曲を”ステレオ”化する工程には非常に興味を持つところ。

このいわば”ビートルズ現象”は、シニア世代と若い世代間での共感・共有のベストモデルともいえるが、趣味や文化以外の、知識・技術等の伝達・継承もあらゆる場面で積極的に展開されることが求められている。

今回は『企業は「何をなすべきか」』について取り上げる。
企業が経済的な成果を上げるということは、経営者のみならづ企業に働く者すべての課題であることは自明であり、そのために「何をなすべきか」について、課題を体系化して容易に遂行するための視点、概念、方法を明らかにしようとした「創造する経営者」の一部を紹介する。

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企業にとっての本業は「今日の事業の業績をあげる。」、「潜在的な機会を発見し実現する。」、「明日のために新しい事業を開拓する。」の三っつで、これら三っつの仕事は、同じ組織・資源・知識・資金を用いて同時に、しかも”今日”行われなければならない。
今日の問題は時間をかけず効果的に解決し、明日の仕事にむけて資源を集中すべきで、そのためには企業の現実、成果を上げるための能力、利用しうる資源についての理解が必要となる。
その理解のためにドラッカーはいくつかの仮説を立てているが、いずれも当たり前と思われる内容である。しかし、その仮説から実際の行動のための結論を出せる者は極めて少ないと指摘している。

●仮説1:成果や資源は、企業の内部にはない。いずれも企業の外部にある。
⇒成果は、企業が行った活動結果を市場が受け入れてはじめて”成果”となるが、そこにいたるまでの企業内部のプロセスはコストのみを発生させるコストセンターでしかない。
成果を決定するのは企業の外部の人間である。
また、企業にとって独自で唯一の資源である知識についても、「だれかにできたことは、他のだれかが行う」こととなり普遍的かつ社会的資源となる。
つまり、企業活動とは外部にある資源を、外部にある経済的成果に転換するプロセスと定義できる。

●仮説2:成果は、問題の解決ではなく、機会の開拓によって得られる。
⇒問題の解決は機会獲得の障害要因を取り除くのみで、機会の開拓によってのみ成果は得ることができる。

●仮説3:成果をあげるには、資源を、問題ではなく、機会に投じなければならない。
⇒よく言われる「利益の最大化」との表現は曖昧で意味がなく、「機会の最大化」が正確で意味ある定義とし、単なる効率ではなく成果に結びつく機会こそが本質的に重要とする。
つまり、いかになすべき仕事を見つけ、いかに資源と活動を集中するかである。

■仮説4:成果は、単なる有能さではなく、市場におけるリーダシップによってもたらされる。
⇒「利益とは意味ある分野において、独自の貢献、あるいは少なくとも差別化された貢献を行うことによって得られる報酬である。そして、何が意味ある分野であるかは、市場と顧客が決定する。すなわち利益は、市場が価値あるものとし、進んで代価を支払うものを供給することによってのみ得ることができる。」長文引用になったが、業績をあげるためにはマーケットにおいて本当に価値があるものについてリーダシップを握ることである。

●仮説5:いかなるリーダシップも、うつろいやすく短命である。
⇒資源や、知識は占有物ではないため、その拡散は早く限界的存在に落ち込むスピードも速い。
落ち込みを回避するためには、事業の焦点を、問題の解決ではなく、機会に合わせなければならない。

●仮説6:既存のものは古くなる。
⇒今日の企業活動は昨日の意思決定と活動の結果である。しかも、ほとんどの人間は昨日作った、姿勢、期待、価値観によって昨日の教訓を今日使おうとする。昨日起こったことが正常で、そのパターンに当てはまらないものは異常として退ける。
しかし、いかに懸命かつ前向きで勇気を持った意思決定や活動であっても、それらが”普通の行為”、”日常の仕事”になった途端に時代遅れとなる。
未来は予想に従わない、既存のものは古くなる、あらゆる意思決定と行動が、それを行った瞬間から古くなる。
企業は、昨日の通常を今日に適用することではなく、企業活動環境を新しい現実にあわせて変化させることを行わなければならない。

●仮説7:既存のものは、資源を誤って配分されている。
⇒「企業の行う活動の10%が成果の90%を占め、90%の活動は成果の10%しか占めていない。」
この事象は大きな意味を持つ。
第一に、業績の90%が上位の10%からもたらされるのに対し、コストの90%は業績を生まない90%から発生することを示し、業績は利益と比例し、コストは作業量と比例することなる。
第二に、資源と活動の多くは業績にはほとんど貢献しない90%の作業に使われ、資源と活動は業績に応じてではなく、作業の量に応じて割り当てられる。
第三に、利益の流れとコストの流れは同量ではない。利益はコストを賄うが、逆にコストは意識しない限り何も行わない活動、単なる多忙に向かう。
このために必要なアプローチは、どのような活動が問題に振り向けられ、どのような活動が機会に振り向けられているかを検証し、資源の活動の方向付けと配分を常時比較検討することが必要である。

●仮説8:業績のカギは集中である。
⇒利益を生み出す分野に集中し、コストを発生しているだけの分野には力を入れない。またコストの改善が大きな影響を与える分野すなわちわずかな能率の向上が大きく業績を改善する分野に、活動を集中しなければならない。

以上が「企業の現実」に関する仮説であるが、これらの仮説を自企業の問題点に引き寄せて「シンク・スルー(トコトン考える)」して、冒頭の「企業の三つの仕事」につなげていく必要がある。

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注:引用文は全て上田惇生先生の翻訳版に

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